中国は崩壊しない 

陳惠運・野村旗守『中国は崩壊しない 「毛沢東(ビッグブラザー)」が生きている限り 』 (文藝春秋)
〈日中のジャーナリストが説く中国共産党の強さの理由〉

 今日〔こんにち〕の中国についてのすぐれた解説書である。しかもおもしろい。
 新聞やテレビの報道を見ていると、ついその経済発展にのみ目を奪われがちである。
 もちろん、経済発展のすばらしさはうそではない。GDP(国内総生産)が日本を抜いてアメリカにつぐ世界第二位になることは確実だし、外貨準備高も世界一である。国民の生活水準もめざましく向上した。
 しかしこの本は、それにともなう環境破壊のすさまじさも、具体的に詳しく教えてくれる。たとえば○六年に世界銀行が公表した環境汚染が進む世界の二十四都市のうち、十八までが中国の都市である。現在の中国では三十秒に一人の割合で、奇型児を含む障害を持った新生児が生まれている。かつて「住むなら淮河〔わいが〕両岸」と言われた淮河は、いま両岸に林立する工場の未処理の廃水が毎日大量に流れこみ、沿岸の村々の住民の発癌率は異常に高い。淮河がもとの姿をとりもどすには、すくなくともあと百年はかかると言う。
 経済発展にともなう役人の腐敗汚職もすごい。○八年一年間に摘発された大規模汚職公務員は約四万人、一人あたりの平均収賄額は八百八十四万元(約一億三千万円)、中国役人の二人に一人が汚職を働いているという。
 中国を支配しているのは中国共産党である。国家も政府も、党の指揮下にある。中国の最高意思決定機関は、九人の高級党員で構成される党政治局常務委員会である。
 日本には、市場経済の国となった今では共産党の人気もなくなったろう、と思う人があるがとんでもない。大学生の入党希望者は非常に多い。○六年の大学生党員数は約百九十五万人、○七年一年間だけで約百万人の大学生が新たに入党を果たした。それもそのはず、官庁、企業、その他どこに就職するにも、また就職してからも、共産党員であることは絶対的に有利であり、名誉と、権力と、莫大な富とをもたらすからである。現在党員の数は約七千四百万人、もちろん世界最大の政治結社である。この人たちが中国の経済を発展させ、またそこから利益を得ているのだ。
 中国の軍隊である人民解放軍。これも中華人民共和国の軍隊ではなく、中国共産党の軍隊である。指揮権は共産党の中央軍事委員会にあり、この許可がなければ移動することも、したがって被災地の救援におもむくこともできない,四川大地震の際、国務院総理(首相)の温家宝が要請したにもかかわらず、解放軍の現地入りが大幅におくれ、多数の被災者をむざむざ瓦礫〔がれき〕の下で死なせたのは、党中央軍事委員会の指示がなかったからである。
 八九年の第二次天安門事件の際、解放軍が多数の学生市民を射ち殺したり戦車で轢〔ひ〕き殺したりした(三千人とも三万人とも言う)のを、西側のメディアは、なぜ国の軍隊が国民を殺すのか、といぶかしんだが、不思議でも何でもない。党に刃向かう者を党の軍隊が討伐するのは当然なのである。
 この共産党中央指導部に、圧倒的多数の国民は絶大な信頼を置いている。これがゆらぐようなことはまずあり得ないことを、著者は説得的に描き出している。(『文藝春秋』'10.4)

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